家畜の毛にささえられた牧畜民の暮らし
2019年12月22日UP
カテゴリー/毛と皮革
ヤクや羊の毛はチベット人の生活に欠かせないテントや敷物、袋、衣料品などをつくるのに使われてきた。ただし最近ではヤクの毛で織った黒テントに住む人も少なくなり、化学繊維などによる既製品の衣料や布製品が広く流通するようになったため、毛製品を利用する機会は急激に減りつつある。家庭内では加工をせず外部の業者に毛を売る家も増えてきている。
ヤクの毛の利用
ヤクの毛にはクルと呼ばれる柔らかい毛と、フツッパと呼ばれる硬い毛の二種類がある。クルは背中や首のあたりに生え、毎年生え変わる。ヤギでいうカシミアにあたるものである。クルは手や櫛で梳くほか、自然に抜け落ちたものを拾い集めて、テントなどの織物やフェルトに利用する。フツッパのほうは、腹のあたりに生える毛で、はさみで刈り取って集め、テントを織ったり、縄、投石器などを作るのに利用する。テントは、クルとフツッパを使って織った幅30cmほどの長い反物レを縫い合わせてつくられる。
羊毛の利用
羊毛はワという。羊毛は、ションガと呼ばれるフェルトをつくる他、織物(シャラ)や縄を作るのにも利用される。フェルトは、洗った羊毛を繊維が交差するように薄く敷き詰め、水をふりながら上から圧力をかけて固める。雨合羽、ポンチョなどの服をつくる他、敷物、掛け布団などに利用される。
シャラは撚った羊毛を手織りしたもの。白い羊毛の糸で織ったものに黒い羊毛の糸で模様をつくることが多いが、逆に、黒い羊毛の糸で織ったものに白い糸で模様をつくることもある。テントの中に敷いたり、テントの入り口や内側に張ったり、物の上にかけて埃よけカバーにしたりする。ビニールシートがなかった頃には、チーズを乾燥させる際の敷物としても利用していた。
文:海老原志穂
イラスト:蔵西
写真:ナムタルジャ、海老原志穂、平田昌弘、星泉
初出:SERNYA 3号 19–21頁