「ヤクの名は。」ポータル版
チベットの牧畜民たちは、たくさんの家畜を管理するために、家畜を呼び分ける認識語彙を用いている。羊、馬、山羊にも認識語彙はあるが、ここでは、アムドにおいて最も一般的な家畜であるヤクに関する語彙を紹介する。
ヤクは、人間のような固有名詞はもたず、年齢、雌雄、外貌、役割などの語彙のいずれか、または、その組み合わせによって呼び分けられる。年齢、雌雄、役割に関しては、チベット牧畜文化辞典の「ヤク」の「成長段階別の名称 」、「利用目的による名称 」、「群れとして見たときの名称 」を参照していただきたい。以下では外貌に関する表現について主に述べる。
ヤクの毛色に関する表現
ヤクの毛色には7つの基本的な色の表現がある(下図のチベット語をクリックすると該当する辞書項目が表示される)。
ヤクの毛色と角の有無を組みあわせた表現
上述の表現のうち、「全身が黒く角ありの」、「全身が焦茶色で口の部分が灰色または白で角ありの」は、いずれも「角がある」という表現も含まれている。この2つの表現は、ヤクの祖先である 野生ヤクによくみられる毛色であるため、「角がある」という野生ヤクにみられる特徴を含んだ表現になっているものと思われる。
ヤクには雌雄や年齢を問わず、角の生えるものと生えないものがいる。「全身が黒く角ありの」、「全身が焦茶色で口の部分が灰色または白で角ありの」以外の色に関しては、「角あり」の場合は -langという接辞を、「角なし」の場合は –thoという接辞を、色の表現の1音節に付加して以下のように個体を表現する。
- 「角あり」の例
「白黒のまだらで角ありの」 「白・亜麻色・灰色・黒の混じった角ありの」 - 「角なし」の例
「白黒のまだらで角なしの」 「 亜麻色で角なしの」
毛色の模様の位置に関する表現
ヤクの毛色には白(または黒)の特徴的な模様がみられるものがいる。そのような特徴をもつ個体については、模様の位置に関する語彙を用いて表現することがある。
角の形状
角について、「角あり」の場合は -langという接辞を、「角なし」の場合は –thoという接辞で表すことはすでにのべた。「角あり」のヤクの中には様々な形状のものがおり、それぞれを呼び分けることもある。以下に角の各形状による名称をあげる。
文:海老原志穂
イラスト:蔵西
写真:星泉
初出:SERNYA 3号 12–18頁