ほぼすべてが、ヤクだつ ヤクの解体ドキュメント
ヤクの屠畜・解体は夏の新鮮な草を食べてヤクの肉づきのよくなる秋に行われることが多いが、必要に応じて年間をとおして行われる。2018年12月におこなった青海省ツェコ県での取材にもとづき、ヤクの屠畜・解体のプロセスをまとめてみよう。
放牧中のヤクの中から屠畜するものを選ぶと、数日間、家屋近くの柵の中で草を食べさせてさらによく太らせる。屠畜をする日の前日には、ヤクへの感謝を込め、テントの中の仏壇に灯明をささげる。
1. 窒息・気絶させる
屠畜は男たちの仕事だ。ヤクの屠畜には大人の男が最低でも2人、できれば3人必要である。屠畜を手伝う男たちがやってくると屠畜がはじまる。
まず、ヤクの首にロープをつけて一人がひっぱりながら、もう一人がヤクの頭をおさえる。現在では市販のロープを使うことも多いが、昔はヤクの革紐を使っていた。
前肢2本をロープでしばりあげ、そのロープの先を股の間から通して後肢もしばり、横向きに倒す。そして、お経を唱えながら、同じロープの端でヤクの鼻と口もきつくしばり、気道をふさぐ。
その後、20分ほど放置し、ヤクが完全に息絶えるのを待つ。その間、ナイフを研ぎ、解体の準備をする。
2. 動脈を切って絶命させる
大動脈を切るための利き手を肘まで洗い、さらにナイフも洗う。 ロープを解き、角を地面に対して直角につけて仰向けにさせる。ヤクの顎を上向きにさせ、固定する。
ナイフで喉の下のあたりに切り込みをいれ、屠畜のための穴をあける。そこに利き手を突っ込み、気管と間違えないように注意深く大動脈を探す。見つかった大動脈を人さし指をひっかけて引きちぎる。引きちぎった大動脈から出る血は放血されず、胸腔にたまる。
3. 皮を剥ぐ
さきほどナイフを入れた箇所から喉に向かってナイフを入れ、喉まで切り裂く。さらに、腹に向かってナイフを入れ、肛門までまっすぐに切れ目を入れる。
皮を剥ぎやすくするため、足先から前肢と後肢の内側に切れ目を入れる。切り込みを入れた腹の皮と肉の間にも小刀を入れる。小刀を使い、足先から皮を丁寧に剥ぐ。小刀で四肢の皮を剥がし終わったら、片側の前肢と後肢をロープで縛り、引っ張りながら皮を剥ぐ。その際、ヤクの体の片面の下にコンクリートブロックを置き、支えとする。昔はヤクの鞍を支えとして用いていた。皮は、左右どちらから剥いでもよい。ヤクの皮をはがす際にはハンマーで力一杯たたき、肉から皮を剥がしていく。昔は尖った石を用いていた。
片側の皮を剥がし終わったら、いったんロープをはずし、もう片側の前肢と後肢をしばり、同様に皮を剥がす。皮を剥がしたほうの肉の下にはビニールシートをしき、肉に土がつかないようにする。ロープをはずし、膝から足を折る。頭の皮も剥がす。
4. 枝肉と内臓を分ける
胸の上部分から腹に切り込みを入れ、内臓を取り出す。喉につながる食道の先端と第四胃の腸につながる部分を尻尾の毛で結び、第一胃の内容物が外に出ないようにする。第一胃とその他の内臓を分けて取り置く。
胸肉の上部分を切り取り、肺も取り出す。胸腔から小さなたらいで血を汲み取る。血は腸詰めなどに使い、余れば犬の餌にする。 胆嚢は食べられないため、切り取って捨てる。
腸にくっついた腹腔内脂肪を丁寧にはがす。
腸にやかんで水を注ぎ、中の内容物を洗い出す。
前肢を切り取り、続いて、肋骨を切り取る。左右それぞれ、前から6本目までの肋骨、中央部分の6本の肋骨、後ろの2本の肋骨を分けて切り離す。胸椎、首の肉も切り離す
仙骨をひっくり返し、ハンマーで割り、左右に開く。仙骨から後肢を切り取る。
顔の皮を剥がし、頭を切り取る。
5. 肉の解体
切り取った肉を家のバルコニーに運び、細かく解体する。肋骨は一本ずつばらす。胸腔内の肉の塊と脂肪を茹でて、屠畜した当日の肉として食す。
6. 内臓の下処理
胃袋はビニールシートにくるみ、背負いかごに入れて川に洗いに行く。解体に使ったビニールシートと内臓を川の流れで洗い流す。ビニール袋や第三胃に他の内臓を詰め込む。
7. 腸詰め調理
腸は、そのまま保存をするとくっついてしまうため、腸詰めの調理を先に済ませておく。肉を刻み、小麦粉、塩とともに直腸に詰め込む。直腸の一部は茹でて、その日に食べる。残りは冷凍保存する。
8. 枝肉に紐をつける
各部位ごとにまとめて紐をかける。肋骨は前から6本目までの肋骨、中央部分の6本の肋骨、後ろの2本の肋骨それぞれを紐でくくる。部位ごとに調理方法、茹で時間が異なるためである。紐をつけた枝肉と袋に入れた内臓を外の棒にかけ、一晩放置して凍らす。
9. 凍らせた枝肉、内臓の取り込み、保存
翌朝、日が高く昇って暖かくなる前に、枝肉と内臓を棒からはずし、肉と内臓は袋に入れて、ヤク糞で作った肉の貯蔵庫に詰めて保存する。
保存した肉と内臓は、気温が温かくなる春まで、必要に応じで解凍し、利用される。
これで、ヤクの屠畜・解体、そして、肉、内臓の保存についての一連のプロセスが終わる。
文:海老原志穂、別所裕介、平田昌弘
イラスト:蔵西
写真:海老原志穂