東京外国語大学 AA研 チベット牧畜文化辞典編纂チーム 運営
 

འབྲོག་པའི་པོ་ཏི།

チベット牧畜文化ポータル

チベット料理を作ってみよう!

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「チベット料理を作ってみよう!」へようこそ。モモ (蒸し餃子)、トゥクパ (汁あり麺)といったチベット料理は、亡命チベット人たちによって世界にひろめられ、よく知られるようになりました。しかし、チベット料理には、他にも、乳製品や肉、内臓、大麦・小麦、そして、野生植物を用いたさまざまな料理があります。ここでは、東北チベットで記録した、牧畜民の料理を中心に、これまで知られてこなかった多様なチベット料理のレシピをアーカイブしています。

活動

2023.03.27
チベット食文化研究会 (@チベットレストラン&カフェ タシデレ)
2023.03.10
ロゴモモ (蒸し焼きパン)、ピンシャ (春雨と肉のおかず) (@カワチェン)
2022.11.22
トマ芋料理の再現調理 (@チベットレストラン&カフェ タシデレ)
2022.10.23
バタン風トゥクパの再現調理
2022.09.25–26
羊と乳をめぐる異文化交流ワークショップ (@北海道釧路市茶路めん羊牧場、縫別自然の家) を共催にて開催
2022.08.08
カルコン (肉の包み蒸しスープ)、野葱バターの再現調理 (@チベットレストラン&カフェ タシデレ)
2022.05.23
オコ (ミルク麺、ミルク粥)、イラクサのスープの再現調理 (@チベットレストラン&カフェ タシデレ)

チベット料理レシピ集 クックパッドへ

『ツェコ風土記』より「チベット牧畜民の食事」

2015年に、チベットの東北部、黄河源流域にあたる青海省ツェコ県の人々が地元の地理・地誌、暮らしと文化、口承文芸などを豊富な写真とともに記録してまとめた書籍『ツェコ風土記』* が刊行されました。650頁にもおよぶこの書籍には、チベット牧畜民たちの主要な食べ物のレシピや食べ方、効用などが記された「チベット牧畜民の食事」という一章があります。この章に記された22種類の食べ物・飲み物を翻訳し、紹介します。翻訳は日本で文化人類学の博士号を取得したチベット人研究者の拉加本(ラジャブム)さんに依頼し、海老原が監修しました。イラストは書籍掲載の写真などをもとに、蔵西さんに描いていただきました。

* མགོན་པོ་སྐྱབས། ཀུན་ཐར་རྒྱལ། བང་རྡོ། (2015) རྩེ་གཞུང་སྐྱིད་པའི་སྨན་ལྗོངས་ཀྱི་དམངས་སྲོལ་རིག་གནས་སྤྱི་བཤད་ཕ་ནོར་རིན་ཆེན་གཏེར་མཛོད།, 甘粛民族出版社.

1. シン

一般に、シンにはトマ芋のシンと、ツァンパのシン、小麦粉のシン、チーズのシンなどたくさんの種類がある。

その中でもトマ芋のシンは、春と秋に掘ったトマ芋をきれいに洗って乾燥させ、かまどで煎って石臼で挽き、そこに適量の黒砂糖を混ぜ、新鮮な溶かしバターの中に混ぜてよく攪拌する。大きさの違う入れ物3つに入れて固める前に、線状にした色つきのバターや、果物、飴などを好みできれいに飾りつけをし、(型からぬいた時に飾りが)上にくるようにする。お祭りや吉日に食されるごちそうである。

ツァンパのシンは、トマ芋のシンと作り方は同様である。トマ芋粉の代わりに粗く挽いたツァンパを用い、砕いた黒砂糖とクルミを多めに入れたものである。小麦粉のシンとチーズのシンの材料は小麦粉やツァンパを主にする以外には作り方はトマ芋のシンと同様である。

一般に、シンの中に水は入れないため腐敗はしないが、保存期間が長くなるとバターが古くなって苦くなる。いずれのシンも、溶かしバターを平らになるように注ぎ入れ、その上に果物を飾り、卍や法輪などさまざまな吉祥の模様を入れる。

2. トゥル(バター菓子)

トゥルにはチーズのトゥルと小麦粉のトゥル、米のトゥルの3種類がある。

そのうち、チーズのトゥルは、質がよく清潔な乾燥チーズと冷水を4対1の割合で入れ、一晩つけておく。つけ終わったチーズと新鮮なバターを3対1の割合で混ぜ、さまざまな入れ物に入れて固める。卍の模様になるようにその上に指でへこみを作る。客人に出されるほか、大規模な法要などの際に僧侶に贈られるごちそうの一つともなる。

最高のトゥルとされる「ツォトゥル」は、乾燥チーズとバターを混ぜ合わせ、その上にレーズン、煎ったトマ芋クルミ黒砂糖氷砂糖のかたまりを粗く砕いたもの、そして、蜂蜜を少し混ぜて作ったものである。ツォトゥルは三種の白い食品、三種の甘い食品すべてが入った、ごちそうの一つである。

小麦粉のトゥルはまず、鍋の中に水を入れ、その中に小麦粉と乾燥チーズを加えて、スプーンでかき混ぜ、小麦粉のニョクを作る。小麦粉のニョクを焦げつかせないようよくかき混ぜる。小麦粉のニョクを加熱した後は、それをまな板の上に置き、まな板の大きさに合わせて四角く成形する。そして、溶かしバターを入れて固める。その後で、さらに多めの溶かしバターを注ぎ、上にレーズンや果物などで卍や吉祥紐などのさまざまなめでたい模様を描き飾る。

米のトゥルは、ご飯を炊いてその中にレーズンを混ぜ、溶かしバターを注いでゆすり、まな板の上に取り出して四角い形に成形する。その上に溶かしバターをかけて、表面に果物と飴で吉祥模様を描くのは小麦粉のトゥルと同様である。米のトゥルは、以前はチベットの牧畜地域にはあまり広まっていなかった。しかし、近年、米が普及するにつれて広まってきたものと思われる。米のトゥルには溶かしバターをたくさん入れる必要もないため、経済的な負担をおさえる目的で、新しく考案された料理である。

3. トマ芋入りご飯とトマ芋の溶かしバターがけ

・トマ芋入りご飯

トマ芋入りご飯は、乾燥トマ芋をきれいに洗ってゆでた後、炊いたご飯の上に、そのトマ芋と黒砂糖、レーズン、クルミなどを盛り、溶かしバターをかけて食べるものである。トマ芋入りご飯の味は甘い。そして、下痢を止める効用などもある。

チベット人は、新年を迎える最初の日の朝食にトマ芋入りご飯を食べる習慣がある。トマ芋入りご飯は、祝い事を象徴するごちそうである。

その理由はいくつかある。理由の一つ目は、チベット人が白いものをめでたいことの象徴と考えており、米はあらゆる穀物の中で最も白いからだ。

理由の二つ目は、米が「法螺貝の真珠」、「吉祥紐」などとも呼ばれており、それらがいずれも八吉祥に分類されているからである。

理由の三つ目としては、チベット人が、熟した果実を、理想や願いを意のままに叶えてくれる重要なものとみなしているためだ。

理由の四つ目は、トマ芋入りご飯に混ぜる「トマ」は「口が暖かい(kha bro「カ・ト」)」という表現と音が似ており、レーズン(葡萄)は果物の中でも高級品であるためである。葡萄の類語には「蜂蜜の味」、「美味」といった表現があるので、葡萄には「蜂蜜のように甘い願いを意のままに叶える」という意味があると言われている。

これらの理由により、チベット人はトマ芋入りご飯を縁起のよい食べ物とみなしているのである。

・トマ芋の溶かしバターがけ
トマ芋の溶かしバターがけは、トマ芋を鍋で煮た後、茶碗によそい、その上に白砂糖や黒砂糖をかけ、溶かしバターを注いだ食べ物である。甘く、そして、栄養豊富なすばらしい食べ物だ。トマ芋を食べ終わった後で茶碗の底に溶かしバターがたまっていたら、その中にツァンパを入れて食べる。このすばらしい食べ物は、栄養不足による気虚、血のめぐりが悪いことによる疲労、高齢者の体を養生するなどの効用がある。

・「トンディ・ジャムナク」
「トンディ・ジャムナク」(片側が黒いトマ芋入りご飯)とは、炊いたご飯とゆでたトマ芋が混ざらないように、左右に分けて一つの器に盛っておき、砂糖と溶かしバターをかけて食べる料理である。言い伝えによれば、かつて漢人が中国から米と砂糖を、チベット人がチベットからトマ芋とバターをもたらすことにより、両者が協力し合って作られた食べ物であるという。そのため、両民族の団結を象徴する食べ物とされる。

4. ツァンパ

「ツァンパ」という言葉には、「ツァンパの粉 (ツァムキャ)」と「こねたツァンパ」という二つの意味がある。

大麦や大豆は、混じり込んでしまった小石や草、オーツ麦などの異物を取り除いた後、水に浸してから煎る。煎ったその大麦を「煎り麦(ユ)」といい、煎り麦を石臼大きな石臼でひいたものを「ツァンパの粉 (ツァムキャ)」と呼んでいる。

「ツァンパの粉 (ツァムキャ)」には、大麦のツァンパ大豆のツァンパ小麦のツァンパがある。これを用いた食べ物には、「バターのみでこねたツァンパ(マルゼン)」、「砂糖と乾燥チーズ、バターでこねたツァンパ(ゼンチャン)」、「水分を多めに入れたツァンパ(キョマ)」、ツァンパのニョク(ツァム・ニョク)、ツァンパ粥(ツァム・トゥク)、「ツァンパのシン(ツァム・シン)」、「バターと混ぜ合わせたツァンパ(シェマル)」などがある。

また、宗教的な儀礼に用いられる、焚き上げ用のツァンパ、丸めたツァンパ、ツァンパ・ケーキ、「ジョソ・シェマル」(大麦やバター、米、チーズなどを盛った上に小麦の穂を挿したもの)、羊の頭部の形をした供物などを作る材料にも使われる。

「ツァンパ」の二つ目の意味は、その「ツァンパの粉 (ツァムキャ)」にバターとチーズを入れてこねたものである。こねる順番は、まず茶碗にバターを入れ、乾燥チーズをかけて乳茶を注ぎ、その上にツァンパの粉をふりかけてから練っていく。こねる時は、「千頭の羊とツァンパは周りからかきあつめる必要がある」ということわざ通り、片方の手に茶碗を持ち、もう片方の手の四本の指、つまり人さし指、中指、薬指、小指でツァンパを周りからゆっくりかき集めながら練っていく。一部の地域では、ツァンパの粉 (ツァムキャ)を入れた後にチーズをかける。ツァンパに入れる油分の加減は自分の好みに合わせてよい。油分多めのツァンパを食べければ、バターを多めに、お茶を少なめに注ぐ。また、油分少なめのツァンパを食べたい場合、バターを少なめにし、お茶を少し多めに入れてこねる。

「シェマル」とは、乳茶を注がず、少なめのバターとツァンパの粉 (ツァムキャ)をそのままこねたものである。

フトゥマ」とは、バター、チーズを入れたツァンパと同様であるが、作る時は、最初にツァンパの粉を入れ、その後にチーズとバターを入れる。最後に乳茶を注いでこねて食べるか、もしくは「デグ」(ツァンパの粉や小麦粉などに水分を多く入れ、撹拌したもの)のような形状で作り、「キョマ」(ツァンパの粉にお茶を注ぎ、攪拌したもの)のようにして飲むものである。

今日、砂糖は白い食べ物の味を引き出すのに欠かせない存在となっている。

ことわざに「ツァンパが世界を養う」とあるように、ツァンパは作りやすく、利用や保管もしやすく、持ち運びやすい上に栄養豊富な、全てのチベット人が日常的に食べる主要な食べ物である。

また、ツァンパは食用だけでなく、人間の精神と身体を養生する効用がある。ことわざに「風邪をひいた時には、ツァンパ粥を食べよ」とあるように、風邪などの病気にかかった際、ツァンパを食べるとよいと言われている。さらに気虚の時、ツァンパのスープを飲むとよい。腹をくだした際は、溶かしバターで「シェマル」を作って温かいうちに食べると効き目がある。疲労で手足が痛む時、ツァンパの粉でなでさすと効用があるなど、ツァンパを用いたさまざまな治療法がある。

5. チーズ

チーズには「ンガルチュル」、「ンゴチュル」、「キュルチュル」、「キャチュル」などたくさんの種類がある。

「ンガルチュル」は、ミルクからクリーム皮膜を取らず、ヨーグルトにしたものを攪拌して鍋で沸かし、こした後、凝乳を天日で乾かしたものである。

「ンゴチュル」は、木の攪乳器で攪拌したバターミルク、または、クリームセパレーターで攪拌してできた脱脂乳をヨーグルトにし、それを一度沸騰させて取り出した栄養豊富なチーズである。

「キュルチュル」は、木の攪乳器で攪拌したバターミルク、または、クリームセパレーターで攪拌してできた脱脂乳をヨーグルトにし、長時間かけて沸かして取り出したチーズのことをいう。

「キャチュル」は凝乳を脱水した後のホエーを水分がなくなるまで長時間かけて沸かし、取り出したチーズ状のものである。味と栄養価はよくないものの、「チーズの精髄」と呼ぶ人もいる。ミルクからのチーズの生産率はその10分の1であるため、(チーズは)ヤクのミルクの重要な栄養分を取り出したものといえる。また、チーズには乳酸カルシウムが豊富で、特に高齢者、妊婦、子供の体力を養う効用があり、便秘と下痢にも効用がある。さらに、「チーズの精髄」は糖尿病の患者に効果があると言われている。

6. ヨーグルト

ヨーグルトは、牧畜民の知識と製法に基づき、ミルクの中にヨーグルト種を入れ、発酵させた食べ物である。

ヨーグルトの作り方はまず、沸騰させたミルクを冷やし、中に指を入れ、人肌程度の温度になったら、清潔にした容器の中に注ぎ、ヨーグルト種を混ぜて攪拌する。容器に蓋をして、ミルクの温度を保つため、服などで容器を包む。3時間ほど経ったら、包んでいた服をはぎ取り、ヨーグルトを容器ごとに涼しいところに運ぶ。そのできたてのヨーグルトを食べるととてもまろやかな味がする。服で包んだミルクをあたためる時間が長ければ長いほど、ヨーグルトの味は酸っぱくなる。それゆえ、ヨーグルトの甘さと酸っぱさは自分の好みで調整すればよいのである。ヨーグルトを食べる時、ツァンパの粉 (ツァムキャ)や砂糖をかける習慣もある。

ヨーグルトは甘酸っぱく、栄養豊富なので、これを嫌いな人はほとんどいない。子供の時に、ヨーグルトを食べると賢くなり、成長をうながす。また、骨や血、体力を増進する効果があるほか、体力を回復させ、傷を治し、消化をよくし、睡眠の質をあげるのにもよい。特に、食後にヤクのヨーグルトを食べると心臓や精神にもよい。また、チベット人は、ヨーグルトを食べた後に、お茶を飲むことを避ける習慣がある。

7. 初乳

初乳とは、雌ヤクが仔ヤクを産んでから、仔ヤクが乳を飲むまでの間に搾られたミルクのことをいう。その味は濃厚で美味しく、栄養価も高い。初乳は自然にできるものであり、人間の手で作られるものではない。その量は少なく貴重であるため、人々がとても喜ぶ飲食物である。

牧畜地域では、仔ヤクが産まれたことに気づいた子供に、沸かした甘い初乳をごほうびとして与える習慣がある。これは「仔ヤクの初乳」と呼ばれる。

また、小麦粉に初乳を混ぜたパン(ティコル)を作ることもある。

8. バターミルク

バターミルクは、チベットで伝統的に作られるもので、木の攪乳器の中でミルクを攪拌してバターを取り出した後の残りの液体のことをいう。

あるいは、クリームセパレーターで撹拌してバターを取り除いた後の脱脂乳のことをさす。脱脂乳にはミルクよりも脂肪分が少ない。しかし、それを乳茶ヨーグルトの材料にしたり、鍋で沸騰させて、チーズ作りに使ったりしてもよい。

バターミルクは血圧と胃の病気に効用があると言われている。

牧畜地域ではバターミルクの中にツァンパの粉(ツァムキャ)を入れてこねた後、真ん中にバターを置き、羊とヤクを世話する牧夫が携帯食料として持って行く習慣がある。食べる時には、バターと一緒に食べる必要があり、特有の甘酸っぱい味がして、腹持ちもよい。牧畜地域ではパンを発酵させる時にもバターミルクが使用されている。

9. ミルク

チベット高原に生息している雌ヤクから搾られたミルクは、特徴的な白い食べ物である。

ヤクは「高原の舟」と呼ばれ、その名は世界中に知られている。ヤクは雪山のきれいな水を飲み、夏には青々とした草や薬草、冬には枯れた草を食べる。ヤクが高原の汚染されていない土地に生息していることは、ミルク自体の質とも関わっている。このような土地で生み出されたミルクは、ほかの家畜のミルクより栄養分やミネラルなどが2倍近くもある。特に、カルシウムの量がとても高い。

ヤクのミルクはバターチーズの原料となり、「白い食の母」のようなものであるため、チベット人に好まれている。また、チベット人の認識において、白はすぐれた 色と考えられているため、ヤクのミルクは人々の最高の飲み物、そして、神々へのすばらしい供物とされている。

ヤクのミルクの味は甘く、そして、脂肪分が多いため、健康の維持、体力の向上、身体の発育、精子の成熟をうながすほか、長く飲み続けると免疫力を高める効果もある。ミカンなどの果汁や、糖分のあるものをミルクと一緒に調理するのはよくないとされる。ミルクを使用して、乳茶、バター茶、甘い乳茶など栄養豊富な飲み物も作られる。

10. バターのニョク

バターのニョクは、小麦粉に水分を加えて粘り気が出るまでこね、かまどにかけておいた溶かしバターをかけるごちそうである。

牧畜地域では、夏場に大事な来客が家に来た時に、 がなければこのニョクを用意する。材料となる小麦粉 とバターは、牧畜民の家には常備されているため、バターのニョクは調理しやすい食べものである。白い食べ物の中でも来客用のおもてなし料理の一種とされている。

バターのニョクは比較的お腹にたまるため、昼食しか摂らない斎戒の際に欠かせない食べ物の一種である。ツァンパを入れたツァム・ニョク、大豆の粉を入れたシェン・ニョク、小麦粉を入れたシェ・ニョクなど、ニョクの種類にもいろいろある。

11. バター

バターとは、ヤクの乳を搾った後に木の攪拌器で攪拌するか、または、クリームセパレーターでクリームを分離して生成した乳製品のことをいう。

家族一人ずつに分けたバター

ヤクのミルクはほかの家畜のミルクよりすぐれているため、そのミルクから得られる黄色いバターの栄養価もほかの家畜のものとは比べるまでもない。

牧畜民はクリーム・セパレーターよりも、木の攪乳器で作ったバターを大事している。バターは、清浄な白い食を調理するのにとても重要な食材であり、宗教儀礼における使用頻度も高い。例えば、バターランプや、バター飾り、特にラサにおけるゲルク派の大祈願 祭(ラデン・モンラム・チェンモ)で捧げられる花の形のバター供物にも使用されている。

現在、工夫を凝らしたさまざまな偽のバターが作られ、店でも売られている。しかし、これらは、その価値や栄養、純度などあらゆる点において、ヤクのバターとは比べ物にならない。他方、バターは、クリームとして顔や手に塗ることもできる。

また、チベットの医学書によれば、バターには栄養を補い、身体を健康にし、止血するなどの効用があると言われている。

12. 血のソーセージ

チベットの慣習ではヤクや羊を屠殺した後、内臓に詰め物をする、「腸詰め」というユニークな調理方法がある。血のソーセージ小麦粉のソーセージ直腸のソーセージレバーの網脂巻き(セラ)などの種類がある。

血のソーセージは、ヤクや羊を屠殺する際に家畜を窒息させて気絶させた後、家畜の胸の中に手を入れて、大動脈をちぎり、体全体に流れている血を胸腔に溜める。その血を容器に汲み取る。赤身肉や、胃袋についている脂肪を細挽きと粗挽きにしたものをバランスよく混ぜ、血に加える。血の塊が大きければ手でつぶしてならし、塩を加える。好みで山椒の粉を加える。その後、箸か棒でよくかき混ぜ、血と詰め物をほどよい割合でまぜたどろどろの具材を第四胃に流し込む。第四胃の口を少しひっくり返し、そこに箸か棒を挿し込む。左手の親指で棒の先をおさえ、右手で第四胃を上からしごいて、具材を腸に行きわたらせる。

血に混ぜる赤身と脂肪の量が多すぎて詰めにくい場合は、腸の口を高くして、具材を流し込む。それでも詰めにくい場合は、右手で腸を上から下にしごいていき、具材を詰め込んでいく。力を入れすぎると、腸が破れるおそれがある。ある程度の長さまで詰め終わったらそれを切り、両端を羊毛の紐で結んでおく。引き続き、残りの腸にもそのように詰め物をしていく。

血のソーセージがゆであがった時にソーセージが破れないように、鍋の蓋を取って、ソーセージの上でナイフを振りかざす習慣がある。血のソーセージのゆで方には、よく火を通したものと半生で血のスープがしたたるものの2種類がある。血のソーセージは貧血と気虚に効果がある。

13. 小麦粉のソーセージ

小麦粉のソーセージは、みじん切りにしたたっぷりの脂肪に、小麦粉少量と塩を加え、お湯を加えてかき混ぜて腸に詰める。詰め方は、血のソーセージと同様である。

14. 直腸のソーセージ

直腸のソーセージの作り方は以下の通りである。

まず結腸盲腸をぬるま湯で洗い、中を数回すすぐ。その結腸をさまざまな長さに切る。赤身第一胃などをみじん切りにする。挽肉が粗すぎると詰めにくくなり、腸が破れるおそれがある。また、細かすぎると肉の味わいがなくなる。ネギとニンニク、塩などの調味料を加えて味つけする。そして、小麦粉ツァンパのいずれかを加え、直腸に詰めていく。詰める時、腸が手から滑り落ちないように、また、挽肉が手につかないように、腸の中や詰め物の上に、小麦粉かツァンパのいずれかを少量かける。その後、腸の口を内側に折り込み、指で詰め物を詰め込んでいく。腸が詰め物と一緒に裏返されてすべて出てきたら、作業は終了である。ゆでる時には、熱湯に入れて沸騰させる。しばらくすると蒸気が腸の中にたまり、ふくらんでくる。そうしたら、腸を針で刺し、中の蒸気をぬく。半生状態で鍋から取り出して冷やし、食べる時に鍋に戻して火を通していただく。

直腸のソーセージは栄養豊富でおいしく、体力を回復させるなどのよい効用もある。

15. レバーの網脂巻き

レバーの網脂巻きの作り方は以下のようである。

まず、肝臓を皮かまな板の上に置き、頚部の骨などをくだいたものとみじん切りの脂肪少量を混ぜる。そして、羊の網脂の上にその具材を平らにしきつめ、端からくるくる巻いていく。それに紐を巻いて結ぶ。鍋に入れてゆで、半生の状態で食べる。

レバーの網脂巻きは、おいしくて栄養もあるので、チベット人の好きな食べ物のひとつである。

16. 食道のソーセージ

ヤクの食道は裏返すと白い色をしている。第一胃などのみじん切りに塩などの調味料を加え、食道の中に詰めてからゆでて食べる。

17. 膵臓詰め

膵臓は色が赤黒く、平な形をしている。周りが薄くて真ん中は厚い。それを真ん中から切り裂き、みじん切りにした脂肪などをそこに詰め、細い棒、あるいは、紐などで口をしっかり閉じてゆでる。

18. ハチノス詰め

ハチノス詰めは、みじん切りにした脂肪に塩などの調味料をふり、羊の第一胃につながっているハチノス(第二胃)の中に詰める。ハチノスの口をしっかり縫って閉じる。

内臓に詰め物をする作業をすべて終えた後、血のソーセージ小麦粉入りのソーセージ直腸のソーセージそれぞれから一部を切り取り、さらに、胸肉などを加え、ご近所におすそわけする習慣がある。そのおすそわけを「ナクスム」と呼ぶ。

19. 小麦粒入りスープ

小麦粒入りスープを作るには、まず、すり鉢に小麦と少量の水を入れ、杵でしばらくついて脱穀する。それを石臼で粗挽きした後、みのでふるってきれいにしてから、ヤクや羊の頭、ヤクのあばら骨などをゆでたスープに入れて煮込む。小麦粒入りスープは気虚によいとされている。

20. 大麦の粥

大麦粒入りスープとは、煎った大麦を脱穀して加える以外は、小麦粒入りスープの作り方と同様である。

21. 羊の胃の石詰め丸焼き

羊の胃の石詰め丸焼きは、チベットで古くから伝わる独特な赤い食べ物である。

まず、盛ったヤク糞の上に石を並べ、その上にさらにヤク糞を置き、またその上に石を並べる。十分な量の石を並べたら、ヤク糞を燃やして石を加熱する。火が燃えない場合、ふいごで火力を強くする。

それから、屠殺したヤギや羊の第一胃をめくり、胸肉あばら肉などの一部を切り取って胃の中に入れる。その上に熱くなった石を一段のせ、さらに肉を加え、その上にまた石を置く。このように、肉と石を段にして置いてから、塩を加える。その他の調味料は入れても入れなくてもよい。これらの作業手順がすべて完了してから、胃の口を羊毛の毛糸などで結ぶ。

その胃を燃えた火の上に置くと、胃の中にスープがたまり、煮えたつ。また、胃に蒸気がたまってふくらんでくる。その時、胃の口をゆるめて蒸気を外に少し逃してやる。さもなければ、胃袋の中に蒸気がたまりすぎて爆発する恐れがある。

第一胃の口をゆるめて蒸気を外に逃した時に、赤い肉汁が流れ出てきたら、中の肉がまだ煮えていない証拠である。その時は、胃を再び火の上に戻し、引き続き加熱しなければならない。蒸気を逃す時に灰色の肉汁が流れ出てきたら、中の肉が完全に煮えているので、取り出して食べてよい。

熱く焼けた石を胃袋に入れる時や、胃袋の口から蒸気を逃す時には、鉄の火バサミなどの道具を使わないと手をやけどするので気をつける。

羊の胃の石詰め丸焼きは、美味で栄養もあり、体力や腎臓の機能を向上させ、気虚などの体力のない人には特によい効用がある。

22. イラクサのクレープ巻き

この食べ物を作るにはまず、イラクサ小麦粉脂肪、塩を用意する。

イラクサは新芽がもっともよいとされ、チベット暦の5月から6月中頃に摘む。摘み取ったイラクサを水できれいに洗い、乾燥させた後、手でちぎるか、または、すり鉢でつぶすかして細かくする。そして、鍋に水を注ぎ、その中に肉と脂肪、小麦粉、細かくしたイラクサ、塩を加えて混ぜる。しっかり火を通し、イラクサのニョクのようなものを作る。その後で、無発酵の小麦粉の生地を薄く伸ばし、別の鍋で焼く。イラクサのニョクをその薄焼きのパンにのせて食べる。

菜食の料理にしたい場合は、脂肪を入れない以外は上記の作り方と同様である。

この料理には、胃を温め、消化をうながし、気虚を治し、体力を回復させるといった効能がある。神経疾患を取り除き、消化不良にも効く。

この料理はチベット各地に広まっており、ツェコ県ホル郷の牧畜民の村では、正月にこの料理を必ず作る。

昔、ケサル王の母上であるゴクサがイラクサのニョクを作り、聖者ミラレパがイラクサだけを食し「イラクサにイラクサをかけた」というエピソードが残っている。また、ツォンカパの母上がツォンカパをお腹に宿している際にこの料理を食べたという伝承もある。

研究助成

本ページ「チベット料理を作ってみよう!」の作成に際しては、味の素食の文化センターからの研究助成(「チベット牧畜民の伝統食アーカイブ−青海チベット、ツェコ県の調査にもとづいて」2021年4月—2023年3月)を受けました。ここに記して御礼を申し上げます。

制作体制

編集:
海老原志穂
ウェブデザイン・ウェブページ作成:
チュラロックス
協力:
チベットレストラン&カフェ タシデレ 、武藤浩史 (茶路めん羊牧場 )、ジャムヤン (東京外国語大学大学院博士後期課程)