東京外国語大学 AA研 チベット牧畜文化辞典編纂チーム 運営
 

འབྲོག་པའི་པོ་ཏི།

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歌と語りが彩る人生の一大イベント、結婚式

2019年11月23日UP
カテゴリー/冠婚葬祭
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アムドの結婚式は日本と同じように、嫁入り婚と婿入り婚がある。豪華な結婚式簡略式の結婚式があり、また、伝統的には親の決めた結婚が多い中、恋愛結婚も増えてきている。農業地域と牧畜地域の間でも違いがある。農業地域では嫁入り婚の場合、嫁側に払う結納金の額が大きく(漢族の習慣の影響だと言われている)、牧畜地域ではそれほど大きくない。同じ村や部族の中などの知り合い同志の結婚の場合にはさらに結納金の額は少なくなる。家庭の経済状況や方針の違いなどもある。以下では、伝統的なアムドの結婚式の段取りを示す。

結婚式の段取り

結婚には、嫁側の家の代表者(アジャンツァン)と婿側の家の代表者(ニェンツァン)の間の話し合いが非常に重要である。両家の代表者は基本的には男性で、結婚相手を決めるだけでなく、結婚式の大きさや、日取りなどについて話し合う。アジャンツァン、ニェンツァンの人数は結婚式の規模による。多い場合にはそれぞれ20人以上いる場合もあるが、簡素な結婚式の場合には3人程度の場合もあるという。

以下では、嫁入りする際の、結婚の段取りを紹介する。このうち、省略される段取りもあり、段取りの順番が入れ替わることもある。特に同じ氏族集団の中で結婚する場合など両家がお互いによく知っている仲である場合、占いや話し合いも省略される。

結婚が決まるまで

  1. 伴侶を探す
  2. 伴侶を見つける
  3. カップルを慣れさせる(一緒に寝る)
  4. カップルの相性を占う
  5. 相手の家系を調べる
  6. 伴侶を最終的に決定する
  7. 花婿の家庭は花嫁の衣装を用意する
  8. 花婿側が仲人(男性で口上のうまい人)を選ぶ
  9. 両家の最初の話し合い
  10. 両家の二回目の話し合い
  11. 花嫁を略奪する(事前に花嫁に伝えておく形式的な略奪と相談なく行う略奪がある)
  12. 花嫁を実家に帰す
  13. 略奪後の三度目の話し合い
  14. アジャンツァンが集まって話し合い
  15. 話し合いがまとまり、神に酒がささげられる
  16. 焚き上げを行い、お経を唱える

結婚式の準備

  1. 花婿側が用意する花嫁の衣装について話し合う
  2. 花婿側から花婿側に支払う結納金、花嫁が持参する財産(家畜など)について話し合う
  3. 結婚式の日取りを決める
  4. 主に花嫁側の家系について流されるネガティブなうわさに応対する

結婚式当日

  1. 花婿の家庭が結婚式の準備をする。羊、ヤクを屠畜、パンを焼き、餃子をつくる。お菓子、野菜、酒、たばこ、その他の飲み物を用意する
  2. 親戚、隣近所、友人などが客人として招かれる
  3. 花嫁は母親から結婚生活(花婿の家族にどう接するか)について助言を受ける
  4. 花嫁の女の親戚が花嫁の髪を編む。花嫁の兄弟や従弟・従兄が髪についての口上を述べる
  5. 結婚式が始まる
  6. 花嫁は花婿の家へと向かう。母親が嘆き悲しむ
  7. 花嫁が家を離れる際に、福を呼ぶ文言が唱えられ、運気を呼び込む儀礼が行われる
運気を呼び込む儀礼を行う僧侶
  1. 親戚、隣近所、友人が贈り物をもって花婿の家にやってくる
  2. アジャンツァンが花嫁をエスコートして花婿の家に来る
  3. 花婿の家庭は花嫁とアジャンツァンを歓迎する
  4. 花嫁とアジャンツァンは歌で迎えられる
  5. 花婿の家族はアジャンツァンを家に入れ、食事と酒でもてなす
  6. 花婿の家族の代表の女性がお茶を土地神に捧げ、お茶に関する口上を述べる。続けて、アジャンツァンに酒を捧げ、花婿側の人間が酒に関する口上を述べる
  7. 花嫁の父が一般的な口上を述べる
  8. 他のアジャンツァンが口上を述べる
  9. 花婿の親戚や友人にあたる既婚女性(マシュ)がアジャンツァンに歌を歌う
  10. マシュがアジャンツァンからお茶代(チャダルまたはウレと呼ばれる。実際には布をやりとりする)を受け取る口上を述べる。マシュがアジャンツァンに水をかけるとおどし、歌を歌わないならお茶代を渡すよう言う
アジャンツァンに水をかけようとするマシュ
右側に座っている人たちがアジャンツァン。左側に立っている人たちがニェンツァン。アジャンツァンの前には様々なごちそうが供される
  1. アジャンツァンが帯を結ぶ口上を花婿に述べる
  2. アジャンツァンが結婚式の口上を述べる
  3. 宴会をもりあげる歌が歌われる
  4. アジャンツァンとマシュが歌のやりとりをする
  5. 花婿側がアジャンツァンに送別の食事を提供する
  6. 花嫁がアジャンツァンの出発を嘆く
  7. アジャンツァンまたは花嫁の兄弟が花嫁を慰める
  8. 花婿側がアジャンツァンが去る前に酒を提供する
  9. 花婿側の既婚女性が花嫁のテントの中で花嫁につきそう。花嫁は終始、袖口で顔を隠し、恥ずかしがるそぶりをする
既婚女性につきそわれ、袖口で顔を隠しつつ待機する花嫁
  1. 結婚式の後で、アジャンツァンとニェンツァンの女性の間で歌垣が歌われる
  2. 花嫁は花婿の家で数日すごしてから実家に帰る
花嫁の介添人に両側からエスコートされて花婿の家から実家に帰ろうとする花嫁。以前は花嫁の乗る馬に乗って帰ったが、現在では車を用いる。この車も花嫁の乗る馬と呼ばれる。

以上に示した、結婚式にいたるまでの話し合いと結婚式の段取りについては、マンラ(貴南県)のウォンコル村(半農半牧の村)の事例についてまとめた Nyangchakja(2016)の研究を参考に一部加筆したものである。

Nyangchakja(2016)The last dragon banquet? Changing wedding traditions in an Amdo Tibetan community. Asian Highlands Perspectives 41. Asian Highlands Perspectives.


文:海老原志穂
イラスト:蔵西
写真:星泉
初出:SERNYA 4号 17–24頁