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འབྲོག་པའི་པོ་ཏི།

チベット牧畜文化ポータル

チベット・アムド地方の牧畜民の乳加工体系 (1)

2020年03月22日UP
カテゴリー/搾乳と乳加工
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クリームセパレーターが普及する1980年以前では、生乳(オマ)からの加工には、発酵乳系列群、クリーム分離系列群、凝固剤使用系列群の3つの乳加工技術が採用されていた。

用語解説

※中尾佐助氏(1972)が提案した世界の乳加工技術を類型分類するための概念(中尾モデル)に基づく。

発酵乳系列群:
生乳をまず酸乳にし、酸乳からバター/バターオイルやチーズを加工する一連の技術群
クリーム分離系列群:
生乳からまずクリームを分離し、クリームからバター/バターオイル、スキムミルクからチーズを加工する一連の技術群
凝固剤使用系列群:
生乳に何らかの凝固剤(凝乳酵素レンネットや有機酸)を添加し、チーズを加工する一連の技術群
以下の体系図においては、 は生産物、「 」は添加物、( )は加工を表す。

1)発酵乳系列群

酸乳をそのまま食に供するには、生乳(オマ)を必ず殺菌してから加工を行う。加熱殺菌した乳に、前回の余った酸乳ショを添加し、数時間静置して酸乳(ショ)へと加工する。

発酵乳系列群
加熱乳酸醗酵亜系列

一方、酸乳をバターやチーズに加工する場合、生乳を加工せず、そのまま自然発酵させる。この自然発酵乳もオマと呼ばれ、特別な名称は与えられていない。自然発酵乳は、攪拌してバター(マル)へと加工する。また、生乳に酸乳のショを添加することにより酸性度を高め、直ぐに攪拌してバターを作ることもある。

バターをとった後に残ったバターミルクをタラと呼ぶ。

発酵乳系列群
非加熱自然醗酵亜系列

バターミルクからは非熟成乾燥チーズを加工する。自然発酵して酸性度が高まったバターミルクを、そのまま加熱沸騰して凝固させる。凝乳(チュラ)を取り出して布袋に入れ、吊るして脱水する。更に、天日乾燥して非熟成乾燥チーズ(チュラ)へと加工する。ホエーをチュルクと呼ぶ。

バターミルクは、乳酸発酵と加温凝固による圧縮チーズ(ニェンチュル)を作るのにも用いられる。作り方は以下の通り。バターミルクは天日に当てて温かくしながら日中静置する。その後、加温し凝固させる。凝乳(チュラ)を布袋に入れ、手できつく絞ってから、木に吊るしてさらに脱水する。圧縮して固まったものを包丁で約1.5cm角に切り分け、天日乾燥させたら完成である。

2)クリーム分離系列群

クリーム分離系列群の乳加工技術は主に気温が低下する冬におこなわれていたという。生乳を、加熱殺菌しないままに一晩静置し、表面に浮上したクリームを分離する。クリームをオカと呼ぶ。クリームを取り去った後に残った乳には特別な名がなく、生乳と同じ語(オマ)である。

クリームは手で攪拌し、バターへと加工する。バターを取り去った後に残ったバターミルクは、マルチュと呼ぶ。

クリーム分離系列群
非加熱クリーム分離亜系列

3)凝固剤使用系列群

生乳に、凝固剤として酸乳(ショ)を添加し、加熱凝固させる。生乳は、長く静置し過ぎて腐敗気味となった非加熱殺菌乳が利用される。凝乳を取り出して布袋に入れ、吊るして脱水する。更に、天日乾燥して非熟成乾燥チーズ(チュラ)へと加工する。ホエーは他の系列の場合と同様、チュルクである。

凝固剤使用系列群
酸乳添加亜系列

参考文献

Masahiro Hirata, Nantaija, Ryunosuke Ogawa, Shiho Ebihara, Yusuke Bessho, Izumi Hoshi, 2017. Milk processing system of Amdo Tibetan pastoralists and its transition in Qinghai Province, China. Journal of Arid Land Studies, 26(4): 187-196.

平田昌弘、ナムタルジャ、小川龍之介、海老原志穂、津曲真一、別所裕介、星泉、2015.「中国青海省のアムド系チベット牧畜民の乳加工体系〜青海省東部の定住化遊牧世帯と農牧複合世帯の事例から〜」『Milk Science』64(1): 7-13.

中尾佐助、1972.『料理の起源』日本放送出版協会、東京.


文・体系図:平田昌弘
写真:平田昌弘、星泉